森脇秀俊は建築板金の職人として生きて三十一年になる。
森脇の仕事を分かりやすく言えば、家を守ることだ。
彼らが携わり、仕上げる屋根や庇、雨樋などは、雨や風、強い日差しなど、自然から家を守る重要な役割がある。
例えば、「雨漏りしない」などは当然と思われるだろう。
森脇はその結果を残すために、屋根や雨樋を巧みに巡らせて、降り注ぐであろう雨を綺麗に流す仕組みをつくる。
どんなによい素材を使って強固な家を建てたとしても、ここがしっかりしていないと家の耐久性を保つことが出来ず、老朽化が進む。建てた家が数十年後も問題なく健康であること。
この当たり前の結果を残すために、森脇には絶対に譲れない信念がある。
「お客様のためにならないことは、絶対に出来ない。やらない。」
この言葉は代々受継がれてきた志であり、森脇が家に住む人を想い、厳しく仕事に取り組んでいる証でもある。
森脇は足立区の舎人にある三代続く板金職人の長男として生まれた。職人の家系であり、小さい頃から跡継ぎと言われていた森脇は、迷うことなく高校卒業と同時に家業に専念する。
実家だから休日など融通がきくのではないかという期待もあったが、実際の職人の世界は厳く、また、職人さんが休みの日でも四代目となる森脇は休める日などない。
そして何よりも、父である親方の言うことは絶対だった。
「僕らにとっては僅か一日の仕事ですが、お客さんにとっては一生なんですよね。すべては、お客さんのため。言葉だけでなく、そんな姿勢を何度も何度も叩き込まれてきた。
だから、自然とそうしなければならない、という感覚なんです」
森脇は技術だけでなく、この仕事の本当の役割を父から受け継いでいく。例えば、雨樋なんて本来ないほうが格好いいかもしれない。その気持ちは十分理解する。 しかし、それがどうしても必要な場合がある。家を守るために、また、住む人が快適であるために。
「外から見たデザインは確かに大事です。でも、図面通りにすると、雨漏りの原因になる場合がある。
そんな時は提案して、相談して変えて頂くこともあります。耐久性がなければ家としての価値が無くなってしまう」
図面の通りにするのが正しいことではないと判断した時、森脇は、あの信念を貫ぬくのだ。すべては、お客様のために。
そして、多くの経験で培った〝図面にはない、ひと味″
を加えてそれを見事に収めて解決する。
「間違いのない仕事するだけです。確実に教えて頂いたことをする。それが絶対なんです。
打つべきとことに、ここはいいか、一本とばしちゃおう、なんて出来ない。
誰も見てなくても、自分は誤摩化せない。それをやれば、一生その家の前を通れなくなるから。」
そして森脇は謙虚に言った。
「我々の仕事は大工さんの補助なんです。大工さんのやらないところを、やらせて頂いている」
森脇のルーツを辿れば板金職人の前は、足立区の歴史に残る森脇勘蔵という歌舞伎役者だった。さらに遡ればその昔は神社の神守りをしていたという。
先祖は与えられた役目に徹してきた。時は流れ、森脇秀俊は現代の家を守る役目を背負って生きる。受け継いだ志を守りながら、誰よりも誠実に。
(撮影/取材・文 林建次)