もし、生まれ変わるとしたなら。
「やっぱり、大工なのかな」


寡黙な男は、少し考えて呟いた。この道で生きて四十年になる。
「結局、大工しか出来ないのかもしれないね」


穏やかな口調だったが、ハッキリと言い切った。八月の現場、蒸し風呂のような部屋の中で、佐々木正雄は汗まみれの顔に刻まれた皺を寄せて、笑ってみせた。


エアサイクル東京と共に仕事をする職人の中で、もっとも永いキャリアを持つ佐々木の仕事ぶりは、多くの人から一目を置く。 もの静かで多くを語らず、ただひたすら仕事に没頭し、時として休憩することもなく夜遅くまで続け、さらに休日返上することも日常だ。
まるで求道者のようで、大丈夫なのかと心配になるくらいストイックだが、仕上がったその家は、何故だかとても温かいぬくもりを感じさせるのだという。


もちろん、それはエアサイクル東京が依頼する大工に共通していることだが、例えば手すりにふっと触れた木の肌ざわりでさえも、とても優しい。 それは、細部にまで愛情を注いでいる証だった。 実際、佐々木の建てた家を見て、感じて、惚れ込み、一年待った施主もいたという。

こうした施主の期待を背中に受けながら、ジーンズにTシャツという、一般的な大工のイメージからは少し外れた姿で、彼はいつもラジオを流しながら、ひとりで黙々と仕事に取り組んでゆくのだった。

佐々木は、ささやかな夢を見ていた。 何組もの施主との触れ合いの中、自分がつくった家で夫婦や子供たちが喜んでいる様子は、輝いていて素敵だった。 夢いっぱいの家族の風景を、自分自身に重ねるようになっていた。 「いつかね、自分の家を建ててみたいんです」「大好きな木を、たくさん使ってね」
(職人の貌より一部抜粋 撮影/取材・文 林建次)

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