生涯、忘れられない光景がある。


見上げるほど高く組まれた裸だけの角材の頂上に、屈強な男たちは立っていた。 数センチ足を踏み外せば真っ逆さまに転落してしまうであろうその危険な場所で、彼らは何かを成し遂げようとしている。 紙一重の聖域で悠然と立ち振る舞う男たちの姿は、あまりに神々しく、美しかった。 六歳の少年はただ羨望の眼差しで見上げていた。


そして、少年の魂に明確な決意が宿る。
「あの場所に立ちたい。俺は大工になる」
山内弘美は少し照れくさそうに、だが、はっきりと青森のその光景を語ってくれた。


山内は大工として三十代後半を迎えた頃、PAC住宅を推進する関係者に声を掛けられる。 「初めて山内さんと会ったとき、明らかに他の職人とは違い、圧倒的な誇りと鋭さを漂わせていたのを感じた。仕事ぶりは闘いを挑んでいくようなボクサーのようだった。 圧巻だった。怖かったけど、この人しかいないって思ってました」 (鈴木建築工房 鈴木博司談)


現場では既製品ではなく、国産の無垢の素材を贅沢に使えること。この一つひとつが違う繊細な自然の素材を、己の経験と腕で生かして仕上げていく喜び。 高度成長期を経た、今の日本の時代に、このような価値ある仕事を任されることはそうあるものではない。 そして、職人として最大限の敬意を払って大切に接してくれる、エアサイクル東京株式会社の方針で、東京に出てきてから初めて施主としっかりと関われる環境を持った。施主と職人。 お互いの顔を見て心を通わせる関係が生まれた。家を建て、そこで生きていくことを夢を見ている人たちのために、これまでに培った一流の技術と経験を駆使し、全力をかけて、魂を注ぎ込んでゆく。 「お世話になりました。立派な家を建てていただき、本当にありがとうございます」

家の引き渡しで、施主からねぎらいの言葉をいただける。細やかなことまでに目を配り、全身全霊で作り上げたことが報われる瞬間。 山内の持つ威厳に満ちた鋭さは、新たな経験を積むことによって、染み入る穏やかさを滲ませた職人へと変貌してゆく。 妥協することなく、誇りを持って、がむしゃらに挑み続けたからこそ、それを全う出来る価値ある仕事に導かれた。
(職人の貌より一部抜粋 撮影/取材・文 林建次)

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