季節に合わせて夏と冬「衣替えのできる家🄬」
カテゴリー :家づくりを考える東京では街路樹が色づき始めました。今年は例年よりも遅い紅葉です。異常気象とか、猛暑とか、気になる事は色々ありますけれど、それでもこうした季節の移り変わりを感じられることは日本ならではですし、心がふと豊かになる瞬間でもあります。
自然と共に暮らす・夏と冬衣替えのできる家
エアサイクルの家は「自然と共に暮らす」がテーマの一つです。まったく機械設備を使わないということではありませんが、できるだけ太陽や風の力を活かして住む人の健康と建物の健康を守る家づくりを目指しています。
構造の大きな特徴は、高温多湿の夏、低温乾燥の冬、ふたつの環境に対応するため、夏と冬に衣替えするしくみになっています。
衣替えの方法は、家の床下と屋根上部に設けられた専用の換気口を開閉することで切り替えます。詳細の説明は後半で述べます。
衣替えの必然性は断熱のジレンマ
今、断熱等級6とか7とか、断熱性能値ばかりが注目されているようですが、断熱だけでは真に健康で快適な暮らしは実現できない、と私たちは考えます。
ここでは断熱だけでは解決できないジレンマについて少し考えてみましょう。
断熱とは熱的に空間を区分することです。区分された空間に単に熱を入れない、空間から熱を出さない、という役割を果たしているだけです。すなわち、必要な熱は採り入れて不必要な熱は拒絶するとか、有用な熱は逃がさないで不要な熱だけ逃がす、という器用なことはできません。単純に、入れない出さない、それしかできないのです。
ここで、冬と夏のジレンマが生じます。一例を挙げれば、冬、太陽熱を採り入れたくても、断熱された面からは採れません。夏も、室内にこもった熱は、断熱により逃げられません。 これは、屋根や壁だけではなく、断熱性能がアップした開口部(窓)にも同様のことが言えます。
もし、暖冷房などの機械設備に頼らなければ、断熱された家は状況によっては冬は寒いまま、夏は暑いまま、なんてことも起こり得ます。実際に程度の差はありますが、現代の家づくりにはこうした矛盾が生じています。現在の断熱住宅のほとんどは、機械設備を前提として成り立っていますし、それが前提の省エネルギーなのです。
夏と冬・昼と夜のジレンマ
断熱のジレンマの中で最優先に解決したいのは、夏と冬そして昼と夜のジレンマでしょう。
夏は外からの太陽熱を防ぎたい、冬はそれを採り入れたい。夏の昼間と夜間もジレンマに悩まされます。夜間の涼しさは欲しく、昼間の暑さはカットしたいのですから。
冬は昼間の太陽熱は受け入れたい、しかし夜間の冷気は防止したい、と矛盾だらけです。 この矛盾解決を現代住宅では、暖冷房機械で行っているわけです。建物側では何もなされていません。
建築的手法で解決するエアサイクルの家
季節ごと、時間ごとの矛盾を建築的手法で解決しようとしているのがエアサイクルの家です。
例えば、冬の太陽熱は受け入れるが、夏の太陽熱はすぐに排出する。夏の夜間の涼しさは採り込むが、冬の夜間の冷たさは受け入れない。冬、昼間の暖かさは採り込むが夜の寒さは受け入れない。夏、昼の暑さはカットするが夜の涼しさは採り込む、といった相互の矛盾を建物の衣替えで対処します。
衣替えのための方法その1 躯体内空間をつなげる
断熱は外張り断熱とし、その断熱の外側に通気層、断熱の内側に内壁空洞を設けます。内壁空洞と屋根裏そして1階と2階のふところ空間、さらに床下空間がつながる様に施工し、これらの空間に空気が流れるようになっています。こうした断熱内側の連通された空間を躯体内空間と呼んでいます。同時に、基礎や土間のコンクリートを蓄熱体として利用します。
衣替えするための方法その2 換気口の開閉
建物の衣替えは、躯体内空間の上下に設けられた専用の換気口を開閉することで行います。 換気口はおよそ4月前半に開け、11月前半に閉じます。開の期間が夏モード、閉の時期が冬モードです。
冬は循環
冬モードでは、外張り断熱ですっぽりと被われた躯体内空間を、温度差により空気が自然循環(エアサーキュレーション)し暖かい空気を冷えやすい北側の壁へと届けます。家全体の温度差を減らし、冷たいところをなくすことで壁の中の結露も防ぎます。
夏は換気
夏モードでは、温度差と風力により床下~壁の中~天井裏に外気が流れ、熱気や湿気を外へ放出します。家の中の熱を徹底的に外に排出することでまるで木陰の涼しさを実現します。夜間の外冷気は基礎などのコンクリートに蓄え、昼の暑さに備えます。
自然の原理と建築的手法にこだわる
重要なのは、夏と冬、どちらもファンやダクトを使わずに空気を流すことです。冬は、空気が温まると軽くなり上へ、冷えて重い空気は下へ流れる原理を、夏は温度差換気の力と、風が吹く時に発生する負圧の力で暑い空気を引き抜くしくみです。
高気密高断熱の家が当たり前になってきた今。だからこそ断熱の矛盾、季節ごと時間ごとの矛盾をしっかり理解し、できるだけ機械設備に頼らず建築的な方法と自然エネルギーを利用するパッシブ手法で解決していければと考えます。
衣替えを楽しむ
最後に、15年ほど前にエアサイクルの家を建てられたお客様からこんなお便りをいただきました。素敵だなと思ったのでご紹介させて頂きます。
「エアサイクル工法と床下暖房のおかげで、どの部屋もヒヤッとしません。ドアを開けっぱなしにしても寒くないので、家事がストレスなくスムーズにこなせます。」
「でも、冬寒いのはあたりまえ。どこにいてもぽかぽかになるまで暖房を強めるのではなく、ウールのカーディガンや厚手の靴下、ひざ掛けなど、その季節ならではの装いも楽しんでいます」
「衣替えのできる家」 はひらいの登録商標です